院長 先田の天然歯に対する想い。
この患者さん、実は私たちのクリニックで治療後2年(2022年9月時点)が経過し、つい先日お写真を撮らせていただいた方です。
この前歯を外傷によって破折し、うち一本は根の奥深くで真横に割れていました。
通常ですとすぐ抜いてインプラントか隣の歯を削ってブリッジによる修復となるケースですが、当院ではこのような水平破折の重症例でも抜かずに保存修復し、無事に経過を追いかけていることが少なくありません。患者さんと相談の上、同様の手法で保存を試み慎重に経過を追いかけております。
この患者さんに対し私たちが治療を施したのは、割れていた歯の根の内部の消毒(根管治療)と、破折再発防止目的によるグラスファイバーの補強芯植立、そして前から見えない裏側の部分の小さな詰め物だけです。
抜いてインプラントをしたり、削ってブリッジにすると、治療期間や治療費用は何倍にもなり、患者さんのご負担が増えます。 また、多少ヒビが入っているとはいえ、この美しく、患者さんがもともと持ち合わせている天然歯の質感を再現することは難しくなります。
9月10日にいつも私どものクリニックの患者さんに対し素晴らしく天然歯を模倣した修復物を提供してくださっています片岡繁夫先生より実に多くのことを学ぶ機会がありました。
先生がそのレクチャーの中で熱く語られていたお話の中に、その天然歯の質感再現のことがあります。
『最近の技工士の仕事はある意味楽になった。CADCAMやジルコニア冠の普及によって患者の希望する≪白い歯≫の作製が短時間で簡単にできるようになった。それがいい部分もあれば、残念な部分もある。俺はこれからも天然歯の質感にこだわってシゴトをしていきたいし、そのようなシゴトが必要とされる歯科界を遺していきたい。』
奇遇にも先日、東京で私の恩師でありメンターである内藤正裕先生とホテルの一室で深夜までお話させていただいた内容も、そのような歯科の動向を憂うお話でした。
芸能人やモデルさん達がインスタグラムなどで白く輝く歯を自慢気に披露していて、それに憧れる若い人たちがこぞってセラミック矯正に飛びつき、真っ白な硬いジルコニア冠を入れる、そしてそれをまたインスタグラムなどで自慢気にアップし拡散されていく。
なるほど、まだまだそこはブルーオーシャン、医院経営のことを考えるとそのようなビジネスも成り立つことは理解できます。『一日でも早くそして目立つほどの白い歯にしたい!』セラミック矯正とかクイック矯正と呼ばれるものは、そういった人たちの気持ちに寄り添い、ニーズに応えているという大義名分があるのでしょう、それもわかります。
天然歯の質感を失ったフルジルコニアクラウンの真っ白な冠の製作は、片岡先生のように匠の技は必要としません。また一度患者さんの口腔内に入れてしまうと、固くて割れないそれらはノートラブルです。正確には、それら人工物は・・・です。
内藤先生がくれなゐ塾の終盤でいつも熱く語られることがあります。 『人工物が割れるほうがまだいい、割れたらまた作り代えればいいのだから。割れないその代償を生体が払うほうが、よほど怖い。』
きれいごとをいうなと、どこからか声が聞こえます。 競争過多のこの時代で生き残るのは、経営戦略一本だと。
今まで不器用で散々恥をさらし続けてきた人生、私は今更きれいごとをいうつもりなどみじんもありません。
また人様の生き方や価値観に意見をするつもりもありません。
ただ、私自身が人生の最後に入る棺桶の中では、
『本当に満足のある人生を生き抜いた!お金や名誉ではないかもしれないが、後世に喜んでもらえる確かな何かを遺せた!』
その後悔のない生き様をまっとうしていきたいと願っています。
そして、それがまさしく私のシゴト、歯科に対する想い、天然歯に対する想いなのです。
長文、最後までお読みいただき、ありがとうございました!
皆さんの想いにも感謝です!
2022.9.11
ナチュラルクリニックOSAKA
先田 寛志
※この記事は主として医療従事者向けのインフォメーションとなります。
※これらすべての臨床写真はこのような保存治療の普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。